東京音大ピアノ科卒業後、自らの表現意欲を絵画制作に向け、渡仏。竹ペンと墨による黒い縁取りと、アクリル絵の具で彩色する独特の技法で描く作風は、単に“ヨーロッパへの憧景”というだけでなく、何気ない日常生活の中に見いだす一瞬の“エスプリ”を表現しています。帰国後、その独自の感性が認められ、日本各地の有名百貨店で個展を開催し好評を博しています。
今展では、コートダジュールのヴァカンスをテーマとした作品を中心に原画、版画約30点をご紹介いたします。
◆主催:青山ベルコモンズ ◆後援:フランス観光開発機構 http://jp.franceguide.com/
㈱アートオブセッションお問合せ: 03-5489-3686
パリ、コートダジュールの風景と、そこに暮らす人々のシーンを描き続けている画家、小池佳寿美さん。見たとたんに気分が華やぐようなリズミカルでのびやかな色彩とタッチ、そして描かれた人々のドラマをさりげなく感じさせるエスプリのある作品は女性を中心に人気が高く、多くの人の心を捉えています。そんな絵を描く小池佳寿美さんとはどんな人なのか? 絵を描くようになったきっかけ、創作の源などについて伺いました。
Interview & Text : 山下智美
1970年代の後半に3年間くらいフランスに住んだことがあって、その時は語学学校に通っていたのですが、暇があると色々なところに旅行していたんです。私が住んでいたのはマルセイユの近くにあるカシスという街で、フランスの北部に行くときは必ずパリを通ります。カシスからだとパリまで約700キロ、その途中に広がる田園風景の畑や土や樹の色が、微妙にベージュがかった茶色、赤っぽい茶色、緑がかった茶色と、本当にいろんな色があって、それを見ているのがとても面白かったんです。ああ、絵具はこういう自然の色から出来たんだなと感じたりして。なので、最初はそうした色に惹かれて遊び感覚で描き始めたんです。そして描き始めたら、自分でも信じられないくらいすっかりはまってしまって。
たまたまカシスの家からヨーロッパでいちばん高い崖のあるカナイユ岬(Cap Canaille)が見えたので、一日のうちで次々と色が変わる崖や海の景色を200枚くらい描きました。
でも、それまではずっと音楽を学んでいたので絵には全然興味がなくて、せっかくフランスに行くのだからシャンソンでも勉強しようかしらと思っていたくらいなんです。そう考えると、あの時フランスに行っていなかったら絵は描いていなかったでしょうね。
人の“瞬間”を描くのが好きなんです。例えば、女の人がお花屋さんで花を選んでいる瞬間とか、歩いていた女性が、ふと立ち止まって何かを見つけた瞬間とか。カフェでお喋りをしている女性たちの動きも10秒後にはもう同じではない、その瞬間だけのものでしょ。そして、自分を如何に美しくみせるかという意識の高いフランスの女性がふと見せる仕草は本当にチャーミング。絵を描くにあたっていちばん惹かれるのは、そんな素敵な女性(マダム)たちです。彼女たちの何気ない日常の瞬間が創作の源になっていると言えるかもしれませんね。
それはもう、街で見かけた素敵なマダムを追いかけて「私はどこへ行くんでしょう」と、どこまでも。以前、水を飲むのも忘れてしまい疲れ過ぎて足が動かなくなったこともありました。その時は夢中になり過ぎる自分のことが少し怖くなりましたね。でも、まだいいのは、追いかける対象が女だということ。これが男だったらさすがにまずいわよね(笑)。
そうなんです。しかもその後ろ姿がまた絵になるというか、ゴミを出す姿にさえ目を留めることがあります。その所作はもちろん、何てことのない服装もサマになっていて、ゴミ出しすらオシャレ!と。 小さい頃から常に美しさを心がけているフランスの女性たちは日本の女性にはないものを持っている気がします。だからこそ惹かれるのかもしれません。特にパリのマダムは素敵です。
青山といえば、結婚式を青学会館で挙げた思い出があります。あと、ベルコモンズがオープンした時、すごくオシャレなものができたという印象がありましたね。街のイメージは、若い人よりもちょっと大人の街という感じかしら。 今はイチョウ並木沿いのレストランに時々行きますね。それから気になるのが明治公園のフリーマーケット。あのフリーマーケットは変わったものや面白いものが多くて、以前、オシャレな浴衣を見つけたこともあるんですよ。
ひとことで言うと 、自分にとって面白いものに出逢えたことに満足しています。
私のようにエネルギーがあり余る人間は、何をするかによってはとんでもない方向に行ってしまう可能性もあると思うんです(笑)。例えば、人間関係も自分の感覚で接していると親切心が行き過ぎてしまったり。でも、絵は自分が一生懸命にやればそのままかたちになっていきますし、幸せなことに、その絵を好きになってくれる人たちもいる。
フランスに行くまで続けてきた音楽は教えられて学ぶものでしたが、絵は独学なので、何もかも私の自由。そのせいかプレッシャーを感じたこともなくて、ただ描きたい、そして、描いた絵の中には自分がいるし、これからもそこに居続けたいと思っています。本当に私にとってこれ以上面白いものはないんです。
コート・ダジュールといえば忘れられないフランス映画があります。それはアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』。画面に大きく映し出されるプルシャンブルーの海にキラキラと輝く南仏の光、そして風にのって走るヨット。
マリー・ラフォレの日焼けした肌に映える真っ白のパンツスーツ、アラン・ドロンの素足にスニーカーなど、その何もかもが美しく印象的で忘れられなかったのを覚えています。
時を経て、今、私は娘(小池ミモザ、モンテカルロバレエ団 ソリスト)のおかげでモナコに年3回バレエ公演を見るために訪れるようになり、憧れのコート・ダジュールがいつの間にか身近な場所に感じられるようになっています。
南仏特有の赤い屋根瓦の向こうに点々と浮かぶ白い帆、うす暗い石だたみの階段にポツンと座っているねこ、ブーゲンビリアの咲き乱れる家々、それに胸や背中を大胆に見せたドレスに身をつつんでカジノの前を散歩するマダムなど、絵を描く題材を探して時間を忘れ歩き回るのも楽しみの一つです。
今回は、そんな心惹かれるシーンを特に選び作品にしてみました。みなさまにおしゃれなコート・ダジュールのヴァカンスを楽しんでいただけたらうれしいです。


































